矣(完了の助動詞)。 - 返り点に対する「括弧」の用法について提案

矣(完了の助動詞)。

(01)
用此観之、然則人之性悪明矣。
此を用て之を観れば、然らば則ち人の性の悪なること明らかなり。
このことから考えてみると、そうだとすれば、人間の本性が悪であることは明らかである。
(教学社、風呂で覚える漢文、平成10年、100頁)
に於いて、
人之性悪明矣。
人間の本性が悪であることは明らかである。
といふのは、「見解」である。
(02)
しかるに「矣」は自ら信ずるところを特に強く表示したり、またこれを主張する必要がある場合の口気を写すものあり、その確言のしかたは直覚であり。感情的であり、強くかつ鋭い。国語では「~であることはいうまでもない「~にちがいない」といような気持ちを含めて訳せば、その意に近い。
(中澤希男・澁谷玲子、漢文訓読の基礎、昭和60年、86頁)
従って、
(01)(02)により、
(03)
人之性悪明矣。
人の性の悪なること明らかなり。
に於ける「矣」は、「自ら信ずるところを特に強く主張してゐる」。
といふ風に、見なすことが出来る。
然るに、
(04)
吾恐他人又見、已埋之矣。
吾れ他人の又見んことを恐れて、已に之を埋めたり。
わたくしは他の人がまたこの蛇を見てはいけないと思って、もう土の中に埋めてしまいました。
(昇龍堂、重要漢文単語文例精解、昭和43年、2頁)
に於いて、
已埋之矣。
已に之を埋めてしまった。
といふのは、「見解」ではなく、「事実」である。
従って、
(02)(04)により、
(05)
已埋之矣。
已に之を埋めてしまった。
に於ける「矣」を、「自ら信ずるところを特に強く主張してゐる」。
といふ風に、見なすことは、出来ない。
従って、
(03)(05)により、
(06)
① 人之性悪明矣(人の性の悪なること明らかなり)。
② 已埋之矣(已に之を埋めてしまった)。
に於ける、
① 矣(信ずるところを強く主張する)。
② 矣。
に於いて、
①=②
といふ「等式」は、成り立たない。
然るに、
(07)
* 矣 完了の助字。「~してしまった」 
(三省堂、明解古典学習シリーズ16 論語 孟子、昭和48年、71頁) 
従って、
(07)により、
(08)
② 已埋之矣。
② 已に之を埋めたり。
② I have already buried it.
に於いて、この場合の、
「已」は「already(副詞)」に相当し、
「矣」は「have +過去分詞」に相当する。
然るに、
(09)
たり[完了の助動詞](接続助詞「て」+動ラ変「あり」の変化した形)
3.自動詞・他動詞の連用形などにつき、すでにに実現している意を表す。
(三省堂、全訳読解古語辞典、平成19年、764頁)
従って、
(07)(08)(09)により、
(10)
② 已埋之矣。
② 已に之を埋めたり。
② I have already buried it.
に於いて、この場合の、
「矣」は「have+過去分詞」に相当し、
「have+過去分詞」は「たり(完了の助動詞)」に相当する。
従って、
(06)(10)により、
(11)
① 人之性悪明矣(人の性の悪なること明らかなり)。
② 已埋之矣(已に之を埋めてしまった)。
に於ける、
① 矣(信ずるところを強く主張する)。
② 矣(完了の助動詞)。
に於いて、
①=②
といふ「等式」は、成り立たない。
然るに、
(12)
① 矣(信ずるところを強く主張する)。
② 矣(完了の助動詞)。
であるならば
漢文には過去や完了を表す助動詞にあたるものがない。
といふ風に、言へない。
従って、
(12)により、
(13)
* 嘗・曽(かつテ・~したことがある)
* 已・既(すでニ・~してしまった)
漢文には過去や完了を表す助動詞にあたるものがなく、このような副詞で表している。
(教学社、風呂で覚える漢文、平成10年、27頁)
といふ「説明」は、「正確」であるとは、言へない。
平成28年05月22日、毛利太。
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